「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

ケータイ世界の子どもたち

 小学校高学年ぐらいから、携帯電話を持たせる家庭が増えてきて、学校でも適切な接し方を指導する必要が出てきています。うちの学年でも、1学期の終わりに保護者会で携帯電話について注意してほしいことを話しました。そのときにとても参考になったのがこの本です。
 最初に指摘されているのですが、「携帯電話」ではなく、「ケータイ」と表記していることにまず意味があります。私たちは通話をする機械というイメージをもっていますが、子どもたちにとっては万能の情報端末であり、その使われ方は通話が中心ではないのです。メール、デジカメ、ウェブの利用を中心として、ゲーム機にもなり、目覚まし時計や音楽プレーヤーにもなるこのツールは、もはや電話ではなく、これまでになかった別のものなのだという認識をもつ必要があるという記述になるほどと思いました。これまで何気なく「ケータイ」という表記を使っていましたが、違いを意識して使っていくことも大事だと思いました。
 内容を読み進めて参考になったポイントがいくつもありましたので、列記しておきます。

  • 子どもにケータイを持たせたからといって安全とは言えない
  • ゲームサイトを通じて大人と子どもが出会う危険
  • ケータイ専用のサイトはPCから見られず、監視を難しくしている
  • なぜ裸の写真を送ってしまう子どもが出てしまうのか
  • パケット定額制のために親が子どものケータイ利用状況を見えなくしている
  • 学校から離れても遮断できないネットいじめ
  • ケータイが「同調圧力」を強化し、アイデンティティを崩壊させている
  • 問題の多い現行のフィルタリング
  • 子どもの生活の中に「煩わしさ」を確保する重要性

 中でも「同調圧力」という観点で子どもとケータイの問題を論じている第三章では、ネットいじめや中学生の抑うつ傾向との関連についての説得力のある分析が展開されています。「同調圧力」というのは耳慣れない言葉ですが、以下のように解説されています。

 社会心理学に、「同調圧力」という考え方があります。集団の中で、多くの人の意見や行動に同調するようにさせる社会的な圧力のことです。日本には「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、地域共同体に強い同調圧力がありました。また、学校でも、多数派の意見や行動に合わせなければいじめられるとか、「浮く」といった形で、同調圧力が見られます。(p.98)

 同調圧力は日本の社会では至る所に見られるものですが、思春期の子どもたちがケータイを使うことによってその問題を強力に加速します。

しかし、逆に考えれば、同調圧力を弱めることができれば、ケータイに関する問題はある程度解決する可能性があるのです。(p.120)

という指摘にこれからの方向性を見いだすことができました。ケータイそのものが悪なのではなく、使う人間の影の部分を増幅しているだけだということを大人も子どもも改めて認識すべきなのだと思いました。
 

ケータイ世界の子どもたち (講談社現代新書 1944)

ケータイ世界の子どもたち (講談社現代新書 1944)