「明日」をつくる生活。

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電子書籍の衝撃

 iPad が販売開始されたときに、電子書籍端末としての位置づけで論評されている記事が多かったことを意外に感じました。というのは、iPadiPhone が大型化した情報端末だという認識で、電子書籍として利用するのはそれほど比重が高くないだろうと思っていたからです。しかし、本書を読んでアマゾンやアップルの戦略を知ると、やはり iPad電子書籍との関連で語られるのが当然だったのだと認識を新たにしました。
 この本では、音楽業界で iTunes が成功した事例をもとにしつつ、出版業界の特性も踏まえて今後の電子書籍の将来が述べられています。一つのキーワードは「アンビエント」です。英語で「周囲の、あたり一面にある」という意味があります。

もちろん本はとてもコンパクトなメディアなので、カバンに放り込んでおきさえすれば、通勤中でもランチの後でも旅行中でも、好きなときに読むことができます。しかしキンドルは本のアンビエント性をさらに高めて、電子ブックリーダーだけでなく、パソコンやケータイなどさまざまな機器を活用して同時に読み進められるようなネットワークを構築してしまいました。(pp.45-46)

このようなアンビエント化によって起きるのが、

そして、アンビエント化された本の世界では、古い既刊本も新刊も、あるいはアマチュアの書いた本もプロの書いた本も、すべてがフラットになっていきます。(p.47)

という状況です。
 そして、書籍の流通、とりわけ日本の出版業界は劇的に変わることが求められ、個人が本を直接出版できる「セルフパブリッシング」の時代がやってくるだろうというのが筆者の見通しです。マスによる流通はもはや主流にはなり得ず、代わりに SNSTwitter、クチコミサイトのようなソーシャルメディアによって自分にぴったりくるレビュアーを見つけることを通して本は読まれていくだろうというのです。
 「電子ブックの出現は、出版文化の破壊ではない」ということですが、ではどのように再構築していくのか。「それはぞくぞくするほど刺激的な未来です。」というのが結びの一文になっていますが、実際にそうなるためには越えなければならないハードルがいくつもあるのではないかと思いました。例えば、ソーシャルメディアで本についての情報を適切に見つけることができる人がどれだけいるのでしょうか。また、セルフパブリッシングがスムーズにできる環境は日本でどのように整っていくのでしょうか。
 自分の立場としては、子どもたちにとって電子書籍の時代に身に付けるべきスキルは何かということを考えていく必要がありそうです。また、自分が本を出して、それが一定のコミュニティの中で読まれる時代が身近に迫っているのだとすれば、どういうコンテンツを出すことができるのだろうと考えています。自分なりにできることを「ぞくぞくするほど刺激的な未来」につなげていけたらいいなあと思います。

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)