「明日」をつくる生活。

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

怒りをコントロールできない子の理解と援助

 もっと早くこの本に出会っていたら,いろいろ違う対応ができただろうなと思いました。これも子どもに関わるすべての人に読んでほしい一冊です。いわゆる「キレる子」への対応について書かれていますが,そういう子が目の前にいなくても参考になる本です。私にとっては子どもの成長と向き合う基本姿勢を見つめ直すことにつながりました。
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 震災から5か月が過ぎ,被災地では当座の生活は何とかなっても,これからの生活の見通しが立たないことにストレスを感じ始めている大人が増えてきていると考えられます。

親自身が必死にせいいっぱい生きているとき,子どもは自らネガティヴな感情をないことにして,親を癒やす子どもでいようとします。子どもは,本当にけなげな存在なのです。大人を助けるために不遇な環境に適応するために,自らの感情を解離させて適応するという感情のコントロールができてしまうのです。(p.33)

 不安や怒りなどの感情を無意識に抑え込んでしまう「いい子」ほど感情の解離を起こしてしまう可能性が高いと言えます。大人達の不安を少しでも和らげることと,子どもが「安心感」「安全感」を得て負の感情をも表出できる環境づくりが必要です。
「解離」の説明はこちら→解離とは?


 そのような子どもの問題を考えるときに,親の責任を追求するということをしてしまいがちです。しかし,それが解決につながることは希です。

親自身がネガティヴな感情を安全なものとして抱えることができないということが,子育てを困難なものにし,子どものネガティヴな感情の社会化を阻んでしまうという,世代を超えた循環現象なのだということを認識することは,子どもを援助していく立場にある人にとっては大事なことです。親が問題だという直線的な理解では,誰も救われません。問題は循環しているのであって,誰もが苦しんでいるのだという視点から,いま,私たち援助者にできること,それを考えていくということが,本書でお伝えしたいことなのです。(p.54)


 現在の目の前にいる子どもの姿だけを見て問題を改善しようとしてもうまくいきません。子どもの成長にまつわるいくつもの「システム」を総合して見ていくことが問題についての理解を進める上で大切です。そのことが「成長発達システム」と「問題増幅システム」という言葉を使って説明されています。

「成長発達システム」は,子どもが生まれてから現在までの間にさまざまな体験をし,家族・学校(保育園・幼稚園・地域社会を含む)との相互作用の中で内的世界(こころ)が構成されてくるそのプロセスを指しています。(p.68)
「問題増幅システム」は,現在起こっている問題行動や症状に対して,家族や学校がその問題を解決するためにどのようにかかわっているのか,そのかかわりが問題を増幅させているという視点です。(p.69)

 一見正当な解決努力が,かえって問題を増幅させている…ふり返ってみると自分にも,身の回りにも多くあったように思います。では,どうすればよいのか。具体的な対応については,後半で詳しく言及されています。対象となる子ども本人,保護者,学級の子どもたち,学級の保護者への援助がシナリオ形式で書かれていてとてもわかりやすかったです。学級の子どもや保護者に対して,最初から援助者としての立場を要求するのではなく,まず援助を求めている存在として接して安心感をもてるようにすることが必要という指摘が心に残りました。
 最後の座談会形式での事例研究には,改めて考えさせられたこと,発想の転換を促されたことがありました。一人一人が大事にされているという実感が子ども自身にもてること(大事にしていると担任が思っているかどうかではなく)は当たり前のようですが,できていないことが多いと思います。「ひいき」はいけないという前提をひっくり返して,あなたもあなたも全員それぞれ「ひいき」するという話が出てきて,なるほどと思いました。
 あと10日ほどで2学期が始まりますが,もし問題場面に出会ったら,ああしてみよう,こうしてみようと考える材料が得られました。「楽しみ」というと言い過ぎかもしれませんが,自分のふるまいが変わることで子どもにどんな変化が現れるかという期待感をもたらしてくれる本でした。