「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

タブレット連動システムで子どもの思考を深める

狛江市のiPad導入

狛江市について

 世田谷区と調布市と多摩川に囲まれたところにあります。全国で2番目に小さい市*1です。住宅地が多く,法人税による収入があまりありません。一般会計予算(昨年度)は257億です。小学校は6校,中学校4校です。平成25年度,小学校にiPadが導入されました。

導入機器

  • iPad 41台(PC教室にあったデスクトップは撤去)
  • 電子黒板(無線LANアクセスポイント2個付き) 3台
  • AirMacApple TV 5セット
  • NAS(ネットワーク対応ハードディスク) 2TB
  • アプリの購入は1台当たり3,000円まで
  • その他周辺機器も含め,狛江市全体で5年間のリース費用は9,100万円(年間1,820万円)

活用事例

一斉学習

 教師が教材を提示するときに,準備が簡単で場所の制約がなく,児童の手元で見せることもできるのがメリットです。

GoogleEarthで航空写真を提示

3年生の社会科で学校の周辺の様子を見せたり,6年生の鎌倉遠足で地形の様子を見せたりしました。PC教室に行かなくても,あるいは電子黒板を持ってこなくても,AirMacApple TVがあればiPadで普通教室のテレビに表示できます。

ヘチマの花を撮影して観察

 ヘチマの雌花の咲いた数が少なかったので,30人以上いる児童にじっくり見せることができません。そこで,咲いている実物を全員で確認した後に写真を撮影し,教室に戻って児童のiPadにその画像を転送しました。一人に一つの標本を用意するのに近い効果があり,しかも拡大してより詳しく観察することもできました。

個別学習

 技能の習熟や,知識の定着につながる利用です。アプリによっては学習履歴を保存することができるものもあります。

漢字・計算の練習や都道府県パズル

 ドリル形式のものは授業中よりも休み時間や放課後に使わせることが多いようです。習熟が十分でない子にとっては,ゲーム的な要素もあるので意欲をもって取り組むことにつながります。

体育で自分の体の動き方を動画で撮影

 自分の体がどう動いているか客観的に見ると,課題をつかんだりできばえを確認したりすることができ,動きの改善や練習の工夫につながります。

協働学習

 一番活用していきたいのが,児童が思考の共有をする学習活動です。自分が書き込んだものをすぐに全体に見せることができ,複数の考えを同時に表示して比較することができます。

画像への書き込みを電子黒板に転送

 国語や社会で,教材となる画像の着目した部分に印をつけさせ,それをもとに考えたことを話し合わせる活動をしました。グループに一台のiPadを持たせることで,自然とiPadを囲んで話し合いや作業をしますし,グループごとの共通点・相違点が明確になるため,学級全体での話し合いも活性化しました。

活動の記録の交流

 理科の実験を撮影し,そこに気付いたことを書き込んできまりについて話し合いました。言語に視覚情報が加わることでより正確に結果を共有できました。また,知らせたいことを強調するために撮影の工夫が見られました。f:id:takeya_masaaki:20140524111325j:plain:medium,rightf:id:takeya_masaaki:20140524111143j:plain:medium,right

思考の深まりとICT活用

 児童の思考を深めていくには,多様な考えに接することが大切です。友達の考えを知り,自分と比較して共通点や相違点を見つけ,個々の考えを総合して抽象化する活動を積み重ねる必要があります。また,そうした活動は言語活動を通して行われます。頭の中にあるもやもやとした考えも言語で表現することによって確定したものになります。さらに,具体的な事象を抽象的な概念に転換していくのも言語の力によります。
 iPadにはグループでの話し合いを促す効果があります。また,電子黒板があれば音声言語以外にいろいろな表現手段を用いて個々の考えを共有することができます。iPadと電子黒板が連携したシステムがあると,児童の思考を深める学習活動を効率よく行っていくことができるのです。

iPad導入の成果と課題

成果

  • 教室にとどまらず,校庭や校外でもICTを活用した授業が展開できるようになりました。さまざまな場面での活用をさらに工夫していきたいと思います。
  • 前述の通り,子どもたちの言語活動が活性化しました。昨年度担任したクラスの子どもたちへのアンケートからもそれがうかがわれます。*2

課題

  • たくさんの児童が共用するので,入っているデータの管理が大変です。また,次のクラスに引き継ぐときには休み時間の5分で切り替えをしなくてはなりません。この辺りは使いやすい授業支援システムを導入できれば解消することと思います。
  • iPadや電子黒板はそれほど難しいことを覚えなくても使えます。しかし,慣れるまでには当然時間が必要で,使ったことがない先生も同じように活用するためには,どうしてもサポートが必要です。機器の操作に慣れた先生が不慣れな先生を手伝う校内の体制や,ICT支援員の配置といった人的な支援を考える必要があります。

*1:面積:6.39km²

*2:「友達の考えがよく分かるようになる」と答えた児童が30人中26人(「とてもそう思う」16人,「まあそう思う」10人)で86.6%に達しました。