「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

小学校プログラミング教育と学習指導要領

はじめに

「2020年、小学校プログラミング教育必修化!」という文字をちょくちょく目にします。株式会社小学館集英社プロダクションの調査によると、“教育改革2020”の内容に対する保護者の認知度は、「小学校でのプログラミング学習の導入検討」が全体の約80%と最も高いのだそうです。しかし、その内容が理解されているかというとそうでもないようです。保護者はもとより、教員の中にも幅広く理解が進んでいるとは言えないのが現状です。(決して怠慢ではなく、そうならざるを得ない状況があることは承知しています。)

いろいろな場で議論が行われつつありますが、中には誤解に基づいた意見も見受けられます。そこで、いわゆる「必修化」の根拠となっている新学習指導要領の記述を確認します。プログラミング教育については関連する記述が5か所あります。

総則 第2

総則とは、教育課程の全般に関わる規定です。その中に以下の記述があります。 *1

各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。

直接「プログラミング」という語は出てきませんが、「情報活用能力=学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられたことが重要です。そして総則の解説には以下の記述があります。*2

情報活用能力をより具体的に捉えれば,学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり,情報を整理・比較したり,得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり,必要に応じて保存・共有したりといったことができる力であり,さらに,このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や,プログラミング的思考,情報モラル,情報セキュリティ,統計等に関する資質・能力等も含むものである。

プログラミング的思考は情報活用能力に含まれる資質・能力であるということです。なお、総則の解説には改正の要点としてプログラミング教育を新たに位置付けたとも記されており、全体の中でも重要と捉えられていることがわかります。*3

総則 第3

あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。
(中略)
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動(太字:筆者)

こう書かれている*4ので、コンピュータを使うときにはたらく論理的思考力を育成することがねらいだとご理解いただけると思います。従来の学習活動でも論理的思考力の育成を目指しているものはたくさんありました。算数はその最たるものでしょう。しかし、コンピュータに意図した処理を行わせるためには、これまでの学習活動では育てられない思考のありようが必要だから、このような記述がされたのです。論理的思考力一般を育てるというねらいではないのです。

算数

算数では以下のように記述されています。*5

第1章総則の第3の1の⑶のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年〕の「B図形」の⑴における正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。

定規・コンパス・分度器を使って作図する技能を身に付けることも大切です。それに加えてコンピュータに描かせることもできるという体験をとおして、異なる方法でも生かせる本質を学びとることにつなげていきます。

理科

理科での記述は以下のとおりです。*6

第1章総則の第3の1の⑶のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の⑷における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。

電気が光や力や音などに変えられるので生活を便利にしていることを学びます。身近なセンサーライトなどの仕組みをプログラミングで再現することにより、学んだことが生活を便利にしたり社会と結びついたりしていることが実感をもってとらえられるようにします。

総合的な学習の時間

総合的な学習の時間での記述は以下のとおりです。*7

第1章総則の第3の1の⑶のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験することが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。

単に体験させるだけでは、総合的な学習の時間の特質に応じた学習活動とは言えません。「探究的な学習の過程」に位置付けることが必要です。「探究的な学習」については総合的な学習の時間の解説*8に次のように書かれています。

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 児童は,①日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて,自ら課題を見付け,②そこにある具体的な問題について情報を収集し,③その情報を整理・分析したり,知識や技能に結び付けたり,考えを出し合ったりしながら問題の解決に取り組み,④明らかになった考えや意見などをまとめ・表現し,そこからまた新たな課題を見付け,更なる問題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰り返していく。要するに探究的な学習とは,物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みのことである。

*1:小学校学習指導要領(平成29年告示)p.19

*2:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編 pp.50-51

*3:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編 p.7

*4:小学校学習指導要領(平成29年告示)p.22

*5:小学校学習指導要領(平成29年告示)p.92

*6:小学校学習指導要領(平成29年告示)p.110

*7:小学校学習指導要領(平成29年告示)p.182

*8:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編 p.9