「明日」をつくる生活。

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

教科とプログラミング - 正多角形を例に

 コンピュータを「自分がやりたいこと・作りたいことを実現する手段」として活用するならば、学校で学ぶ教科の中に押し込めておくのは、とてももったいないことだと思います。しかし、学校で子どもたちと毎日向き合う先生方にとって、これまでに指導してきた学習活動からと離れることは、大きな不安と抵抗感を伴うことでしょう。私が今でも現場にいたら、「大切さは分かるんだけど、でもね。」と言っていたかもしれないと思います。
 子どもたちに一番近いところにいる先生方に抵抗感をもたれては、進めようがない…そこで、プログラミングを導入するにあたって、「各教科等の特質に応じて」「プログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」という学習指導要領の記述に落ち着いたと、私は理解しています。もしかしたら、「プログラミング」という言葉が入らなかった可能性だってあるのではないでしょうか。見方によっては現状の記述は不十分かもしれませんが、今の時点で学習指導要領に「プログラミング」という語が入ったことは、画期的なことです。
 さて、従来の教科指導と新しく入ったプログラミングの関係をどのように捉えたらいいのでしょうか。そのことを、学習指導要領に例示されている5年算数・正多角形をかく学習活動を通して考えてみましょう。
 授業は、これまでに学習したことの確認から始まります。使える道具をそろえるのです。

  • 正多角形は全ての角の大きさが等しい
  • 正多角形は全ての辺の長さが等しい
  • 多角形の全ての角の和は、いくつの三角形に分割できるかで求められる

 このことを元にして、どうすればコンピュータに正多角形をかかせることができるかを考え、プログラミングしていきます。詳しい過程は、例えばこちらを参照してください。 procurri.jp  この活動を通して、算数教育としての学びと、プログラミング教育としての学びを子どもたちにつかませていきたいところです。それぞれどう評価するかという観点を設定する必要があります。算数の観点としては、「きまりを見つけて、それを活用することのよさ」に気付くということになるでしょう。プログラミングの観点としては、「的確な指示さえすれば、正確に繰り返せるコンピュータのよさ」に気付くということです。
 そして、その後に「もっといろいろなきまりを見つけてみたい」となれば、算数科としての「学びに向かう力」が育ったと見て取れますし、「もっと他の複雑な図形をかいてみたい」となれば、プログラミング教育のねらいが達成されているということになります。ワークシートなどに「気付いたこと・考えたこと・これからやってみたいこと」を書かせて見取ることになるでしょう。
 まずは日本全国のどの学校でも、せめて正多角形をコンピュータでかく活動を通して、上記の力を身に付けさせてほしいと思います。しかしそれは、きっかけに過ぎません。子どもたちにとって、日々の学習活動の中で役に立つことはとても大きな意味をもちます。先生方にとってもそれは同じでしょう。しかし、公教育のゴールは、学んだことを「学校という限定的な場面で生かすこと」ではなく、「人生における複雑な課題解決に少しでも生かせること」ではないでしょうか。だとすれば、教科の学びをより確実にするというレベルに留まることなく、子どもたちが現実世界と向き合う中で抱いた問題意識を解決するための手段としてプログラミングを取り入れる必要があるのではないでしょうか。子どもたちの未来の幸せを視野に入れた学習活動をデザインしていただきたいと願ってやみません。