「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

『生成AIで世界はこう変わる』

 このところ驚くほど急速に発達している生成AIが私たちの生活にどのような影響を及ぼすかについて書かれている本です。著者は東京大学の松尾豊教授の研究室に所属する新進気鋭の若手研究者とのことです。理論的な基盤に支えられ、生成AIという技術のもつ可能性とリスクを深く理解した上で、今後の影響を分析しています。

章立ては次のようになっています。
第1章「生成AI革命」という歴史の転換点―生成AIは人類の脅威か?救世主か?
第2章 生成AIの背後にある技術―塗り替わるテクノロジーの現在地とは
第3章 AIによって消える仕事・残る仕事―生成AIを労働の味方にするには?
第4章 AIが問い直す「創作」の価値―生成AIは創作ツールか?創作者か?
第5章 生成AIとともに歩む人類の未来―「人類の言語の獲得」以来の革命になるか?

 私は第3・4章を特に興味深く読みました。

 第3章の中で、技術についての「労働補完型」「労働置換型」という視点が示されています。「労働補完型」というのは、人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたり、生産性を上げたり、新しい仕事を生み出すきっかけになるような技術のことをいいます。一方、「労働置換型」というのは、スキルを持った労働者が不必要になり、そのような労働者が就ける代わりの仕事も生み出さないような技術のことをいいます。産業革命初期に登場した紡績機、力織機などは労働置換技術であったとされています。

 今後、教育の分野にも生成AIが大きな影響を及ぼすことが予想されますが、「労働置換型」ではなく「労働補完型」、つまり教師の仕事を置き換えるのではなく、強力にサポートしてくれる技術としていけるかどうかが問われることと思います。それは実際に生成AIを積極的に使う経験を積み重ねることで見えてくるのでしょう。

第4章では、AI と創造性との関係を考える際に、次のような創造性の3つの分類が示されています。

①組み合わせ的創造性(Combinational Creativity)
②探索的創造性(Exploratory Creativity)
③革新的創造性(Transformational Creativity)
①の「組み合わせ的創造性」は、既存のアイディアや知識の組み合わせ(あるいは引き算的な考え)によって、新しいものを生み出す創造性のことです。
②の「探索的創造性」は、既存のアイディアや知識をなんらかのルールや手続きに従って探索することで、新しいものを生み出す創造性です。
③の「革新的創造性」は、既存のアイディアや知識の枠を飛び越えて、新たなルールを定義するような形で完全に新しいものを生み出す創造性を指しています。

そして筆者は、こう述べています。

③の「革新的創造性」に関しては、現在の生成AIに欠けているように見えます。
ただ、実はこの種の創造性は人間の場合でも発揮されることはかなり稀です。

 だとすると、これから重要になってくるのは、いかに革新的創造性を発揮できるようにするかということなのではないでしょうか。そのためには「外れ値」にあたる発想を大事にすることが必要になってくると思われます。そしてそれは、現在の学校教育が最も不得手とするところだと思うのです。

 生成 AI の発展は教育に関わる私たちに、のっぴきならない問いを突きつけているのですが、その認識を共有できる人はほんのわずかしかいないように思います。