「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

小学校学習指導要領とプログラミング教育

 新しい学習指導要領でプログラミング教育に関連のある記述を引用します。全面実施が近付くにつれさまざまな解釈の記事が出てきています。大元の文書でどのように示されているのかを確認した上で見ていく必要があると思います。
 関連する記述は5か所あります。なお、太字は筆者によるものです。

総則 第2の2の(1)

2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1) 各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。

 今回の学習指導要領での大きな変化は「情報活用能力」が「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられたことです。ここには「プログラミング」という語は出てきませんが、解説*1に次のような記述があります。

情報活用能力をより具体的に捉えれば,学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり,情報を整理・比較したり,得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり,必要に応じて保存・共有したりといったことができる力であり,さらに,このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や,プログラミング的思考,情報モラル,情報セキュリティ,統計等に関する資質・能力等も含むものである。

 プログラミング教育で育成を目指す資質・能力のうち、「プログラミング的思考」が情報活用能力の要素として取り上げられています。

総則 第3の1の(3)

 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
 あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。
ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動

 蛇足ですが、「総則」とは教育課程全体に共通することを定めるものです。
 ここに示されていることからは、「小学校のプログラミング教育はコンピュータを使わなくてもできる」というような誤った説明は出てこないはずです。一部使わないことはあり得ますが、「プログラミングを体験」するのはコンピュータを使わなければできないことですし、「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」こともコンピュータ無しでは考えられません。

算数 第3の2の(2)

数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年〕の「B図形」の(1)における正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。

 これまでいろいろな授業を見てきて、教科の内容とプログラミングの親和性が一番高いと感じているのがこの内容です。

理科 第3の2の(2)

観察,実験などの指導に当たっては,指導内容に応じてコンピュータや情報通信ネットワークなどを適切に活用できるようにすること。また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。

 教室で学習したことを、身近な生活経験や社会と結び付けられる学習活動です。

総合 第3の2の(9)

情報に関する学習を行う際には,探究的な学習に取り組むことを通して,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験することが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。

 ポイントは「探究的な学習」ということです。単にプログラミングを体験するだけで終わっては総合的な学習の時間が目標とする学習活動にはなりません。
 情報活用能力が教科等横断的な視点に立って育成すべき資質・能力であることを考えると、ここに示されている学習活動が今後ますます充実していくことが期待されます。

*1:小学校学習指導要領解説【総則編】 pp.50-51