「明日」をつくるしごととくらし

テクノロジーを取り入れた教育の普及に取り組む NPO で働いています。

小学生の入力スキルは1分間に…

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 GIGAスクール端末を活用して、学びの質を変えていくには、扱う情報の量を大きく増加させる必要があります。インプットだけでなく、アウトプットの量を確保することが学びの質を上げるには必要です。スムーズに文字入力できる力が必要になってくるわけです。多様な入力方法が実用化されてきていますが、現時点ではキーボード入力を習得することが扱う情報量を増大させるには一番の近道であるように思います。*1
 小学生がキーボードで文字入力をする速度はどれくらいかご存じですか?少し前のデータですが、2013年に文部科学省が行った情報活用能力調査によれば、小学校5年生で1分間に平均5.9文字とのことです。30分かけて180字にも至らないのです。この調査はあらかじめ入力する文章が決められていた*2ので、考える時間などを入れると、実際にはもっと少なくなることでしょう。ちなみに紙に文字を書く場合の速度はこちらの研究によると、1分間に2年生で20字、4年生で30字、6年生で40字ぐらいのようです。学習の道具として使えるようにするのならば、せめて紙に近い程度の速度で入力できる力を付ける必要があるのではないでしょうか。
 幸い、Web 上には無料で使えるキーボード練習サイトがありますので、おすすめのものを2つ紹介します。まずは先生方が使ってみて、ご自分が担任している子どもたちに合ったものを選んでいただければと思います。もちろん、先生方自身のタイピングスキルが上がると、校務の能率もぐっと上がりますよ。

プレイグラムタイピング

小学生から始める無料のローマ字タイピング練習アプリ | プレイグラム タイピング
 登録不要で使えます。使っているキーボードに合わせて小文字表示に切り替えられたり、低学年向けにふりがなを付けられたりするのが秀逸。

キーボー島アドベンチャー

キーボー島アドベンチャー
 全国の30万人を越える小学生に使われているサービス。2003年の開始以来、通算2万7千人を越える先生たちに使われてきている老舗サイトです。私も現場にいるときにお世話になりました。利用するには担当する先生による登録が必要ですが、子どもたち一人一人の進級状況やアクセス状況を把握できる機能があり、適切な指導に役立てられます。

 以上2つは無料であるにもかかわらず広告が表示されないのもポイントです。ということは企業の努力で学校や子どもたちのために環境を提供してくださっているわけで、本当に頭が下がります。

 ところで、学習指導要領ではローマ字の読み書きを3年生で指導するとされていることから、キーボードを使い始めるのは3年生からというのが多いようです。しかし、子どもたちにとって負担にならないよう配慮した上でなら、低学年から指導してもいいのではないでしょうか。念のため確認しますが、「指導しなければならない」ではなく、「指導してもよい」という立場です。
 

*1:子どもが自分に合った入力方法を選ぶことを否定するつもりはありません。

*2:「わたしたち3はんは,自動車工場へ見学に行きました。働く人にインタビューをし,デジタルカメラを使って,写真をとりました。写真は CD-R に保存しました。」という文章(72文字)

Google for Education 無料講座を受けてみた

 GIGAスクール端末の使用開始が徐々に広がっています。十分な活用のためにはクラウドサービスの利用が前提となりますが、慣れている先生はごくわずかです。そこで研修の実施が必要になります。しかし、研修担当者自身も慣れていなかったり、限られた時間で通り一遍の内容にならざるを得なかったりと、いろいろな課題があることが予想されます。研修の進め方も、個別最適化を考えるべきでしょう。

 次の調査によれば、GIGAスクールでのクラウドサービスは、Google を採用している自治体が半数以上に上るとのことです。
公立小中学校1人1台環境でChrome OSがトップシェア ≪ プレスリリース | 株式会社MM総研
そこで、Google のサービスについてオンラインで学べる無料の講座を紹介します。手始めにこの講座を実際に受けてみました。
lms.gacco.org

 1章から8章まで、13レッスンと最終テストで構成されています。所要時間は1時間程度ということです。1つのレッスンは3分以下の短い動画を視聴するようになっています。最終テストは選択式の15問で、90%以上の得点率となっていますが、何度でもやり直すことができます。
 再生速度を上げることもできます。動画は落ち着いた口調ではっきりと発話されていますので、私の場合は2倍速でも十分聞き取れました。また、横に書き起こしのテキストが表示され、クリックすると動画のその部分にジャンプできるので、うまく使えばより効率的に受講することが可能になるでしょう。

 この他に次のような講座が開講されています。

 うまく使ってスムーズな活用につなげていただければ幸いです。

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こんな修了証をもらいました

自分と社会を前に動かす力をもたせよう

 昨日の養成塾報告会の中で、Google の鵜飼さんが「自分の作ったもので他の誰かがハッピーになれる、自分の力で社会を一歩でも前に進めていける、そういった体験がさらに次への力になる」とおっしゃっていました。うんうん、そうだよなあ、小学校段階からプログラミング教育に取り組んで行くのも、そこを目指しているはずなんだよなあ、と思いながら聴いていました。コンピュータを身の回りの課題解決や表現・創造の道具として使っていく力は、これからの社会をつくっていく子どもたちにぜひ身に付けてほしいと考えています。コンピュータは道具に過ぎないのですが、人間の能力を大きく拡張してくれる強力な道具です。使えるのと使えないのとでは可能性の幅がまるっきり違います。
 それにつながる取り組みとして、こちらの「Scratch と AI を使ってクリエティブなモノづくりをしている小中学生向けのコンテスト」が紹介されました。 campaigns.google.co.jp  このページに、昨年のファイナリスト3名が出てくる3分間ほどの動画があります。鳥取の14歳、岐阜の11歳、沖縄の11歳がそれぞれ自分の作品のストーリーを語っています。 ぜひご覧ください。作品の詳細もページの末尾にある「過去のコンテスト」というリンクから見ることができます。自分がと課題だと思ったことを、Scratch と Teachable Machine を使って見事に解決しています。こういった子どもたちがどんどん出てくるといいなあと思います。
 今年のコンテストの締め切りは、8月31日の午前11時です。小学校1年生から中学校3年生までが参加できます。4人以下ならチームでも参加できます。詳しくはリンク先をお読みください。総合的な学習の時間のゴールとして、または夏休みの自由研究として、取り組んでみてはいかがでしょうか。

養成塾報告会、無事終了

 70名近くの方に参加していただき、充実した時間をもつことができました。これで養成塾も一段落なのだなあと思うと、感慨深いものがあります。養成塾をきっかけにできた多くの方とのつながり、皆さんの取り組みの広がりを改めて確認できた会でした。
 いただいた感想を抜粋して紹介します。

  • この分野の必要性を実感していますが、周りの職員の興味関心や必要感が低い。(目の前の教育で手一杯)このような会に参加することで今日的な教育、未来の教育について考えるきっかけになると思います。
  • 全国の様子や取り組みが生で聞けるのはありあがたい。オンラインで十分だと感じた。
  • 未来を考える上で「情報活用能力の普及」は大事だと思います。コレが誰でも知っている様になるのが理想ですね。
  • どれも刺激的でした。実践を聞けば自分も発信しなきゃと思い、初心忘るべからず、という言葉を思い出しました。
  • 自分が何も前に進めていなかったり、広める役目も果たせてなくて、刺激をいただきました。みんなのコードさんを知るきっかけから養成塾での出会いなど、それぞれのドラマがあっていいなぁと思いました。X年後。だんだん退職に近づく年齢ですが、後悔しないようしっかり実践をしていきたいと感じました。
  • 「子供たちが自ら課題を見つけ、それを解決するツールとしてプログラムを活用し(文房具を使うように...)、課題解決できる力を身につけさせる」。この言葉が心にささりました。
  • 養成塾での学びをどういかしていくか、どう継続していくか、どうバージョンアップしていくかという視点があったように思いました。対話的という言葉が聞かれるとどうしても「人」とのかかわりと私自身も思ってしまうのですが、子供たちはプログラミングを通じて「もの」とも対話できているのだと思いました。そして試行錯誤することを認めてもらえる環境をわたしたち大人が作っていかないといけないと感じました。

 ご参加いただいた方々にとって、学びの場になったことをうれしく思います。そして、この学びが次世代の日本の教育をつくる力になることを、強く願っています。

プログラミング教育指導教員養成塾

 昨年度まで、プログラミング教育指導教員養成塾を開講していました。2018年度から Google.org の支援を受け、3年間で2,000人の中核となる小学校教員を育成するプロジェクトです。 code.or.jp  おかげさまで無事に目標を達成することができ、明日、一段落の報告会を迎えます。思い返せば、養成塾の始まりは私がみんなのコードに転職した2017年でした。最初の1年間は私たちだけのプロジェクトで、他団体の支援や教育委員会との関わりもなく、土日など休日に自主的に集まってくださった先生方との手作りの研修会でした。その後も教育委員会との共催による研修会には、たくさんの先生方にご参加いただけましたが、継続して濃い活動をしてくださっているのは初期の自主研修に参加してくださった先生方が中心です。今でもその方々とは、刺激のあるよいつながりをもたせていただいています。 ご縁をいただいたことに本当に感謝しています。  この研修を進めていく中で、教育委員会の先生や管理職の先生方の中で、意欲的に改革を進めようとする力のある方々とも、つながりをもつことができました。それは私たちの大きな財産になっています。
 小学校では、多くの実践事例が蓄積され、今後は「やるか、やらないか」の局面に移行してきていると思います。「やらない」ではなく、「やれない」という学校もあることでしょう。しかしそこは、各学校や教育委員会でがんばっていただくしかないところです。支援は続けながらも、私たちは次のフェーズ、中学校や高校での普及や、プログラミング教育の枠にとどまらないコンピュータサイエンスの内容を初等教育に導入していくチャレンジに注力していくことを考えています。

GIGAスクール時代の働き方改革事例集

 文部科学省から「全国の学校における働き方改革事例集(PDF 19.5MB リンクをクリックすると PDF が開きます。)」が出ています。全部で220ページの冊子です。全部で150近くの事例があります。たくさんの事例を効率的に見られるように目次や一覧が工夫されており、PDF なのでクリックすれば目当ての取り組みに飛ぶことができるようになっています。

 こんなふうにカテゴリ分けされていて、削減時間の目安も示されています。↓
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 注目すべきは後半の100ページほどが「GIGA 端末の活用」に当てられていることです。↓
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 多くの自治体で採用された Google Workspace for Education や Microsoft Teams を活用したノウハウがまとめられています。

 ご自身の学校に合った手立てを採用したり、改善のヒントにしたりできるのではないでしょうか。一度ご覧になってみてください。

「探求」と「探究」

 漢字一文字で意味がかなり変わってしまう言葉があります。例えば「最後」と「最期」。「先週を最期に彼に会っていない。」なんて書くと、「えっ!」ということになってしまいます。単なる変換ミスなのでしょうが、同音異義語が多い日本語では気を付けなくてはならないところです。
 学びの文脈でいえば、「探求」と「探究」という語があります。私は「探究」と書くことにこだわっていて「探求」ではないだろうと考えています。今日はそのことについて書いてみたいと思います。

 国語辞典の記述は次のようになっています。

探求 探求(たんきゅう)の意味 - goo国語辞書

あるものを得ようとしてさがし求めること。さがし出して手に入れようとすること。

探究 探究(たんきゅう)の意味 - goo国語辞書

物事の意義・本質などをさぐって見きわめようとすること。

 次に漢和辞典で「求」と「究」について調べました。(一部抜粋)

  1. かわごろも 2. もとめる [熟語] 求心・求職

  1. きわまる 2.きわめる [熟語] 究極・究明

 このように見てくると、「探求」は目当てとするものがすでにあり、それを探していくことを指し示す語と考えられます。一方、「探究」は未解明の本質を見きわめていくことを指し示す語であるといえます。これからの時代に必要な学びが、既存の正解を探し求めるよりも、状況や集団に応じた最適解を探り究めていくことのためにあるのならば、「探求」よりも「探究」を使う方が適切なのではないでしょうか。
 中央教育審議会の答申や学習指導要領では、「探究」の方が使われているのも、こういったことと関係があるのではないでしょうか。教育に関わる方々には、言葉を大切にしていただきたい。些末なことと思われる方もおられるかもしれません。しかし、こういったところにこだわることが、まさに「探究」なのだと私は考えています。そして「神は細部に宿る」のだと思います。

↓ 今回使った新しい漢和辞典 以前買ったのは30年以上前。

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角川 新字源 改訂新版